2019年09月19日

東電刑事裁判 「国の原子力行政を忖度した判決」

東電刑事裁判で東京地裁が「全員無罪」の不当判決を出しました。長時間にわたる判決要旨読み上げが終わった後、司法記者クラブで検察官役の指定弁護士5人が記者会見。石田省三郎弁護士は「国の原子力行政を忖度した判決」と断じています。

続いて、福島原発刑事訴訟支援団副団長の武藤類子さんと被害者参加代理人の弁護士4人の記者会見が行われ、武藤さんは「福島県民をはじめ原発事故の被害者は誰一人、この判決に納得していない」、海渡雄一弁護士は「司法の歴史に大きな汚点を残す、絶対に取り消されるべき判決だ」と述べました。

両方の記者会見の一部を以下、掲載します(××は聴取不能個所)。

【検察官役指定弁護士 記者会見】

◎石田省三郎弁護士

 ひと言感想的なことを述べると、今回の判決は国の原子力行政を忖度した判決だと言わざるを得ない。
 裁判所は、原子力発電所に絶対的な安全性が求められているわけではないといった趣旨のことを言う。被告人3人の義務として、本当に判決が言ったような形のことをやっていればいいのか、つまり、原子力発電所という、もし事故が起これば今回のように取り返しのつかないことになる施設を管理運営している会社の最高の経営者層として、あのようなことだけで本当にいいのか、と感じた。
 私たちは論告等の中で、情報収集義務を中心に彼らの義務内容を論証したのだが、その点についての裁判所の見解が述べられているとは到底思えない。さらに判決の内容を十分に精査した上で今後の対応を考えていきたい。

Q 推本の長期評価について裁判所は信頼性が低いというようなことを言っているが。

A 私は判決内容を聞いていて、裁判所があそこまで踏み込んだというか、科学的な問題についてあのように介入した判断をしてはたしていいものなのかどうか、ということを感じた。というのは、東京電力の担当者、土木グループの人たちは、あの長期評価が出ていることを前提に何をすればいいかということを考えたのだから、そのことについての評価をすべきであって、長期評価そのものが科学的にどうなのか等についての論争をこの法廷で、あのような踏み込んだ形でしていいのかどうか、については今後いろんな人たちが検討の対象とされると思う。
 原子力発電所の安全性を考える段階で、これは一般の防災のことを考えているのではなくて、取り返しのつかない事故が起こり得る可能性を秘めた原子力発電所の安全性の問題を考える上で、あのような議論をはたして裁判所がしてもいいのかどうか、というところから我々はあらためて問題を考え直さなければいけないと思っている。

Q 控訴するかどうか。

A これからそれは考えなければいけない。判決文の内容も××して被害者参加人の方がたとか検察審査会の決定の内容××どうするのかについて検討をしなければいけない。

Q 公判で、これまで表に出なかった証拠が明らかになった。その意義について。

A われわれも法律実務家だから結果がすべて。どのようなことが公判で明らかになったか、それらがどのように影響していくか、ということはむしろ皆さん方が判断されることではないか。

Q 強制起訴の困難さは。

A 判決文の中にもあったが、刑事責任という場合には当然のことながら合理的な疑いを超えて有罪を立証しなければいけない。その難しさはある。だから我々はそれに精力を注いだつもりではいたが、残念ながらこのような結果になった。

Q 市民の判断に基づく検察審査会の議決を経た強制起訴裁判で無罪判決が相次いでいるが。

A 我々がコメントすべき立場にはない。裁判所から選任をされた以上は、その職務を全うせざるを得ない立場にあるということだ。

Q 山下(和彦・地震センター長)氏がが、調書だけでなく証人尋問されていたら、結果は違ったのではないか。

A それはそうでしょう。証言の内容いかんによってはそう思う。刑事訴訟法321条によって(調書が証拠に)採用されているのだが、裁判所の判断の根底には、反対尋問を経ていない証拠ということであのような判断になったのではないかと思う。しかし、あの調書の内容を精査し、他の証拠等を勘案すれば、本来であればあのような判断にはならなかった。

Q なぜ有罪に持ち込めなかったのか。

A 有罪に持ち込めなかったというより、なぜ裁判所が有罪にしなかったかという問題だと思う。(有罪にできるだけの論証はきちんと)やった。それを先ほど言ったように、裁判所が国の原子力行政をおもんぱかり、絶対的な安全性まで求められていないという、そういう判断ってあり得ない。万が一にも起こってはいけないという具体的な発想があれば、あのような判断にはならない。

Q 民事裁判への影響を考えると、これで終わるというのは考えづらいが。

A そういう意見も踏まえた上で、どういうふうにしていくか考えたい。ただ、我々の選任の効果はきょうまで。控訴するかどうかの権限は我々にあるのだろうが、それ以降はまた別の方がおやりになるのかどうか、分からない、制度的に。

Q 裁判所は、結果回避の方法について「停止」しかないと決めつけていたが。

A ちょっと違和感があった。我々は、5つの方策をとるべきであり、それが終わるまでは停止しろという主張をし、いろんな証拠書類等を出している。ところが、被告らはそういうことすらやっていないというところを全く裁判所は無視してしまっている。あの判決の言い方はかなり違和感があった。

Q 結果回避措置についていつまでと主張していない、という指摘があったが。

A できるまで止めておけばいいということで、永遠に止めろと我々は言っているわけではない。

【福島原発刑事訴訟支援団&被害者代理人弁護士 記者会見】

◎武藤類子・福島原発刑事訴訟支援団副団長

 きょうの判決について残念のひと言に尽きる。あれだけ裁判の中でたくさんの証拠や証言がありながら、それでも罪に問えないのか、という思いだ。
 裁判所は間違った判断をしたと思っている。裁判官は福島の被害に真摯に向き合ったのかどうか。福島の現場検証を棄却したこと自体にすでに誤りがあったのではないかと思う。
 この判決は最も責任をとるべき人の責任をあいまいにして、二度と同じような事故が起きないように社会を変えていくということを阻むものだと思う。
 福島県民をはじめとして原発事故の被害者は誰一人、この判決に納得していないと思う。検察役の指定弁護士の皆さんには本当にお世話になったけれども、さらなるご苦労をおかけするが、即時控訴してくださることを望んでいる。

◎海渡雄一弁護士(被害者代理人)

 告訴から検察審査会、37回の公判を一度も欠席せず全過程を見てきたが、これほどひどい判決が出るとは思いもしなかった。これは司法の歴史に大きな汚点を残す、絶対に取り消されるべき判決だ。
 指定弁護士の先生方には、控訴していただき、控訴審も石田先生をはじめとする指定弁護士団にこの事件を続けてやっていただきたい。我々も被害者代理人として全力でそれを支えていきたい。そして必ずや正義が叶えられた高裁判決をかちとりたい。[以下、判決内容の具体的批判については割愛、別途報告します]

(編集部 浅井健治)
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