2018年03月01日

幸せになるために働くのに働いて命を失っていいのか:過労死遺族の訴え

日本弁護士連合会が2月28日、衆院第二議員会館で開いた「労働時間法制を考える院内市民学習会」で、過労自殺した電通新人社員、高橋まつりさんの母幸美さんと、過労死したNHK記者、佐戸未和さんの母恵美子さんが発言しました。以下はそのあらましです(文章の責任は本ブログ投稿者にあります)。

◎高橋幸美さん

 静岡から来た高橋まつりの母です。
 私は娘が生まれてからずっと、自分の命をかけても絶対にこの子を守りたいと思っていた。地方で暮らし、母子家庭で育った境遇の娘に、私はいつも話した。
 それでも、自分の夢を実現するための娘のハングリー精神は並大抵のものではなかった。自分の努力で夢を実現して学問を修め、日本に貢献したいと希望を持っていた。言葉と文章で表現者として活躍し、政府の仕事をしたいと、大手広告代理店に入社した。その後わずか9か月、長時間労働とパワハラで精神障がいを発病して命を落とした。

 上司は残業時間を正確に記録しないように指示していた。「残業するな」と言われるのに「新人は死ぬほど働け」と言われ、先輩はあり得ないほどの仕事をどんどん振ってくる、意味が分からない、この会社おかしい、東京の夜景は私たちの残業がつくっている−そう娘は言っていた。
 時には連続3日間、徹夜で仕事をしていたこともあった。労災申請から半年で認定されたが、どんな認定されても娘が生きて戻ってくるわけではない。24歳の娘の人生も、努力も、夢も、未来も、取り返しがつかない。

 この度の働き方改革関連法案は、過労死の防止と矛盾する内容であると思う。過労死遺族としては絶対に許すことはできない。時間外労働の上限規制が100時間未満という数字は一体なぜなのでしょうか。三六協定で過労死ラインを超える残業時間を設定している職場がたくさんあり、過労死が起きている。労災認定の過労死ラインを超える100時間という数字にすることは、労働者を過労死させることを職場に許可するものだ。
 裁量労働制の適用業務の拡大、高度プロフェッショナル制度の導入は、長時間労働を認め助長するものだと思う。

 日本には労働法を守らない会社があり、過労死が起きている。
 電通は労基署の是正勧告を再三受けていたのに、娘は亡くなった。本人が希望しないのに裁量労働制に変えたり、仕事量を決める裁量がないのに成果だけを求められるおそれがある。娘の仕事はインターネット広告を法人のニーズに応じて企画・提案することだった。政府案の企画業務型裁量労働制の対象になる。もし法案が成立すれば、娘のような長時間労働もすべて合法とされてしまう。

 また、命を守るためにヨーロッパ並みに11時間の勤務間インターバルの義務付けをしていただきたい。娘のインターバルは5時間ほどしかなかった。11時間インターバルがあれば娘は眠ることができ、死なずに済んだ。

 私たち遺族は、過労死犠牲者が日本にたくさんいること、法律を守っていない企業があること、法律は私たちを十分に守ってくれないので自分自身で身を守る必要があることを訴えている。
 幸せになるために働いているのに働くことで命や健康を失っているのが現実です。罰則付き時間外労働の上限規制が100時間未満という数字の見直しを求める。裁量労働制の適用業務拡大、高度プロフェッショナル制度関連法案の削除を求める。勤務間インターバルの義務付けもしていただきたい。
 安倍総理大臣も加藤厚生労働大臣も「過労死を二度と起こしてはならない」と何度も話されている。その言葉が本当ならば、命を犠牲にするのではなく働く者の命と健康を守るための働き方の改善にしていただきたいと思う。
 私からのお願いは以上です。聞いてくださり、ありがとうございました。

◎佐戸恵美子さん

 佐戸未和の母、佐戸恵美子でございます。
 昨年10月、報道記者をしていた長女、佐戸未和が4年前に過労死で労災認定を受けていた事実が公表された。
 未和は私のかけがえのない宝、生きる希望、夢、そして支えだった。亡くなったあと、私は放心状態のまま、家にこもり、ひどいうつ病となり、娘の遺骨を抱いて毎日毎日娘の後を追って死ぬことばかり考えていた。二度と心から笑えることはなくなり、苦しみと悲しみから抜け出せないまま、ただ未和の過労死の事実を世の中にきちんと伝えたいとの思いでここに立たせていただいている。

 未和の死はあまりに突然だった。2013年の6〜7月、東京都議選・参院選と立て続けに大型選挙があり、真夏の炎天下、2か月にわたる選挙取材・報道に駆け回っていたが、選挙戦が終わった直後に自宅でひっそりと亡くなった。連絡がつかず心配して駆けつけた婚約者によって発見された。私たちは娘の悲報を当時駐在していたブラジルのサンパウロで受け、半狂乱になって帰国し、死後4日目の変わり果てた娘に対面した。

 未和の勤務記録票を見たときに私たちは泣いた、こんな働き方をしていたのか、と。深夜残業を連日続け、土日出勤を繰り返す異常な勤務状況だった。まともに睡眠をとっていなかった。記者にとって選挙取材は本来の担当業務に加え新たに発生する、臨時の記者も待ったなしの集中業務だ。後で聞いた話や残された未和のノートからも、同じ職場の他のベテラン記者たちと比べて明らかに未和への仕事量は多かった。
 私たちはこんな長時間労働がどうして会社の中で放置されていたのか、どうしても理解できない。社員の労働時間の管理は上司の責任であり、普通の職場であれば部下の深夜残業が続けば止めるはずだ。部下の深夜残業が連日続いたり、土日出勤を繰り返せば止めるはずだ。組織としても社員の労働時間を適正に把握する義務があり、そのためのチェックシステムやルールもあったはずだ。

 労基署が認定した時間外労働時間は亡くなる直前の1か月間は159時間37分だったが、私たちが算出した時間外労働時間は亡くなる直前の1か月間は209時間、その前の月が188時間だった。当時職場では記者に対しては事業場外みなし労働時間制が適用され、何時間働いても労働時間は同じと扱われていた。これはみなし労働という意味で裁量労働制と同じだ。
 職場の上司は未和が亡くなったあと私たちに「記者は時間管理ではなく裁量労働で、個人事業主のようなもの」と何度も言い、まるで労働時間を自己管理できずに死んでいった未和が悪かったように言われているようだった。この制度があったため、職場では上司による部下の労働時間の適切な管理が行われず、200時間を超える時間外労働が野放しとなり、未和は過労死に至った。制度を乱用した労務管理の怠慢による明らかな人災だ。
 裁量労働制は自分で自由に労働時間を決められる働き方だが、仕事の量は自分では決められない。未和を含めて職場で働く大勢の社員は勝手自由に働けるわけではない。裁量労働となれば労働時間は自己管理とされ、会社の労務管理がおろそかになり、制度が乱用されて、また未和のような犠牲者が出てくる。裁量労働制の拡大は長時間労働を野放しにし、ずさんな労務管理の格好の言い訳になってしまう。

 未和のにおい、未和の体の温かさを私はこれからも忘れることはない。私たちと同じ苦しみを背負う人が二度と現れることがないよう、働く人の命と健康をしっかりと守る法律を作っていただくことを切に願っている。
 ご清聴ありがとうございました。

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 佐戸恵美子さん(右)と高橋幸美さん

(編集部 浅井健治)
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