2019年10月17日

「恨之碑」−人間の尊厳と誇りを刻む

金城実さんが「恨之碑」を制作した当時の記事は、週刊MDSの前身の『統一の旗』時代、ウェブ発足前の号に掲載されています。以下、記事データベースから転載します。

【1999年1月22日 第575号 強制連行の韓国人軍属を弔う 沖縄で“恨之碑”建設の会発足】
 太平洋戦争中に沖縄に強制連行された人々の恨(ハン)を表し、無念の死を遂げた韓国人元軍属(軍で働く労働者)らの霊を弔う記念碑を建設しようという運動が始まった。

◎仲間の霊を弔いたい

 きっかけとなったのは、元軍属・姜仁昌(カン・インチャン)さんと徐正福(ソ・ジョンボク)さんによる一昨年の沖縄訪問。沖縄戦当時、姜さんは慶良間諸島の阿嘉島に、徐さんは宮古島にそれぞれ連行されていた。姜さんらは、「平和と生活をむすぶ会」の協力で阿嘉島を訪れ、同胞十二名の虐殺の跡を確認。その後も「生きている内に仲間の霊を弔いたい」との思いを募らせてきた。これを受けて、昨年十二月十九日、那覇市内で「『太平洋戦争・沖縄戦被徴発者恨(ハン)之碑』建設をすすめる会」の発足式が行われた。
 発足式には、沖縄から碑の制作にあたる彫刻家・金城実さんや弁護士・池宮城紀夫さん、音楽家・海勢頭豊さんらが、本土からは「むすぶ会」の豆多敏紀代表らが参加。被害者が強調する「恨」という言葉をどう受け止めるかの議論が行われた。韓国語の「恨」は日本語の「恨み」とは違い、「遂げられない心の嘆き」ともいうべき意味を表す言葉だ。「沖縄の人々が戦後ずっと持ちつづけている気持ちとも共通するものがある。『もののあわれ』というようなものではないか。これは二十一世紀にむけて両国の間で取り入れていくべき思想だと思う」(海勢頭さん)という認識を共通のものにした。

◎歴史の事実を伝える

 二人の出身地である韓国・慶尚北道からは数千人が沖縄に連行されたといわれている。その人々の記録は公式には何も明らかにされていない。今回の碑の建設は歴史に埋もれていた強制連行被害者の無念の思いを掘り起こす事業でもある。
 慶尚北道での碑の除幕式は八月十五日に予定されている。「すすめる会」はその日に向けて、呼びかけへの賛同や一千万円を目標とした基金への拠出を訴えている。

【1999年8月13号 第603号 人間の尊厳と誇りを刻む 沖縄戦被徴発者恨之碑 「子々孫々への宝物」】
 韓国人元軍属らの霊を弔う記念碑―「太平洋戦争・沖縄戦被徴発者恨(ハン)之碑」がついに完成した。韓国―沖縄―日本本土を結んだ民衆の共同事業に、全国三十都道府県約六百人から六百二十万円の募金が寄せられている。沖縄在住の彫刻家・金城実さんが心血を注ぎ込んだ「恨之碑」は八月十二日、韓国・慶尚北道英陽郡で除幕式を迎える。

 分散会で、元軍属の徐正福(ソ・ジョンボク)さんは「子々孫々に残していく立派な宝物ができた」と碑にかけた思いを語った。「『付近の警備』の名目で宮古島に連行されたが、実際は一番危険な陸軍の軍用品を荷役する揚陸作戦に就いた。五十〜六十機の空襲で船は降沈。日本の船員は全員助かったが、軍夫は浮き袋もなく全滅した。遺骨は見つからなかったが、みなさんの努力で素晴らしい碑ができた」と繰り返す。韓国・太平洋戦争犠牲者遺族会の李煕子(イ・ヒジャ)さんは「長い遺族会の活動の中で、目に見えるものを残してこなかっただけに実現できてうれしい。この碑を発信にして沖縄・日本・韓国の関係が深まってほしい」と呼びかけた。

 開口一番「この仕事に出会い、誇りに思っている」と語ったのは金城さん。「これまでの彫刻を見ると、女性の裸と鳩を描いて『平和の像』というエセ正義が多い。これは戦前の“報国”芸能と同じだ。戦争犠牲者の恨の核心に迫りたいと彫刻に取り組んだ。人間の尊厳と誇りを、この像に吹き込みたい」。目隠しされた青年を処刑する日本兵の醜さをどう表現するのか悩み、韓国に搬入する当日の朝まで制作に従事したという。「戦争の悲惨さや二度とあってはならないとの思いを込めた恨之碑を、沖縄・日本本土・韓国の間で大きく成長させていこう」と訴えた。

 約七か月の建立運動は急速に支援・協力の輪を広げている。運動を担ってきた仲間は「若い人が『私たちもこういうことにお金を出さなくちゃね』と友だちに働きかけ三人分カンパした。戦争動員法や『日の丸・君が代』法案など矢つぎ早の攻撃の中、『今、声を上げなければ』の思いはみんな共通だ。若い人は無理かと思っていたが、そんなことはない」(東京・高畑さん)「当初は反応がなかったが、五月に徐さんの話を聞いてから振り込まれる募金が急速に伸びた。除幕式に向けたタペストリーへの協力はすでに五十人を超えている」(大阪・藤田さん)と取り組みの手応えを発言した。
 新聞や各団体の機関紙などにも掲載され、事務局が知らない人々からも続々と募金が届いている。恨之碑建立を進める会事務局長の豆多さんは「目標の一千万円を達成し、アジアの人々と仲良く生きていく社会を作るために、さらに建立運動を広めよう」とまとめた。

(編集部 浅井健治)
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